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興味半分の極み管理人―ヒジリの行き当たりばったりな日々の一端を載せております。
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 シレンジャーとしての活動が中心になりつつあるヒジリです。またご無沙汰しております。
 話の種自体はいくらでもあるので、後は執筆速度とモチベーションさえあればまた戻ろうかな、と。 

 勘を取り戻す意味で執筆を行ってみました。
 ……長々しまくって、簡潔にならないのは次回以降考えますかねえ。
 書くたびにやたら時間を喰っちゃうので、両立するためにももっと気楽にやるぐらいでいいかもしれません。

 二次創作先にはダイの大冒険を選びました。
 作品のコンセプトは、異世界トリップのもたらす結果云々についてになると思います。

 続きは下のリンクもしくは記事タイトルをクリックしてお進み下さいまし。

 追記:こちらのTwitterアイコンから、ブログの更新履歴を見ることができます。@lunalight_shim
    お気に召したらどうぞ

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 世界一の騎士団を擁し、またその中から救世の勇者をも輩出したとされるカール王国。魔の者達の王が現れ、その邪気に感化された魔物達が牙を剥き初めた世にあって尚、最も盤石な秩序を築き上げていた。
 だが、その歴戦の勇士達ですら、今この場に訪れた脅威を前には為すすべもなく追いつめられつつあった。地上で最も強い力を宿すとされる竜、それが群れを為して城下へ侵入したのである。
 鋼鉄の剣をも通さない鱗に覆われた堅牢な外皮と、燃え盛る炎の息吹を前に騎士達は次々と倒されてその数を減らしていった。竜の暴威を前に逃げ場を失った人々も一人また一人とその餌食となり、豊かな市街も炎に巻かれて灰塵と帰していく。

「…………フローラ様は?」

 襲い来る巨大な竜の牙を紙一重でかわしつつ、男は近くに駆けつけた者へとそう問いかけた。間合いへと迫ったその瞬間に寸分違わず竜の喉元を斬り裂いて、一撃の下へと屠るだけの実力者ーーカール騎士団長のホルキンスだった。
「……そうか。お姿が見えない、だけか。」
 仕えるべき主の行方を尋ねるも、報告者はただ首を振るだけだった。この襲撃が始まった時より敗色が濃いと明白な今、国の頭首をも失うわけにはいかない。
「ならば、せめてオレは刺し違えてでも敵将を討つまで!!」
 この混乱の中で既に逃れたのか或いは敵の手にかかったのかは最早知る由もない。逃げ場もない今、ホルキンスに出来ることは竜の軍勢と戦い、最後にはそれらを束ねる将の下へと向かうだけだった。
 果たして勇猛なる騎士団長は、数体のドラゴンを単騎で斬り伏せ、ついには敵将の下へとたどり着いた。それは竜の衣装を施された鎧とマントを纏い、身の丈程もある大刀を背負った長身の男だった。外見こそ人間に酷似していたが、冷徹なまでの視線はただ人間への憎しみに満ちていた。
「貴様が……超竜軍団長バラン!よくも我がカール王国を!!」
「……。」
 この場にあって明らかに異質な存在感から、ホルキンスはその男がこの竜達を差し向けた張本人であると即座に悟った。大魔王が擁する六大軍団の一つ、猛き竜達を主とした比類なき強さを有する超竜軍団の頂にたつ男。それがこのバランであった。
「カール騎士団長、ホルキンスが相手だ!」
 敵が最強と名高い者と知らぬかのように、ホルキンスは裂帛の気合いと共に名乗りを上げ、そのままバランへと斬りかかった。
 悠然と立ち尽くしていたバランもまた、動じることなく背負った大刀を抜き、ホルキンスの一撃を受け止めた。竜すらも屠った剣を真正面より受け止め、押し返すと共に踏み込んで、虚を突いて大刀を薙ぐ。
 それに対してホルキンスは体勢を崩すことなく刃を潜り抜け、再び斬りつける。息をつく間もなく幾度とない攻防の中で交わされる剣戟は、互いに一歩も譲らぬ様そのものだった。
 好機とみて力強く振り下ろされるホルキンスの剣が不意に空を斬る。その先では、バランが後退すると共に、大刀を鞘へ収めているのが見えた。徒手で構える気配もなく、ただこちらに向じゃい立ち尽くしているだけだった。
「剣を収めるとは臆したか!!」
 それで一体何をしようというのか。バランに苛立ちを隠せずに、ホルキンスはすかさず剣を振り上げつつバランへと踊りかかった。
 だが、その剣が届くことはなかった。目映い輝きが目に焼き付いた次の瞬間、バランの額から一条の光が放たれ、ホルキンスの心臓を寸分違わず貫いていた。

 
 武人の額に浮かぶ紋様が、戦士の胸に刻まれている。手にした剣もその命ごと砕き折られ、流れる血潮に染まっていく。
 つい先程言葉を交わしたばかりの王国最強の戦士の壮絶な最期を看取る中で、きびすを返すバランへと視線を向ける。息一つ乱した様子すらなく、先に見せたのは全力には程遠いものと思い知らされることになった。
 この戦士ホルキンスは、見せしめか、或いはバラン自身の気まぐれ程度の趣きにより屠られたのは間違いなかった。 

 闊歩する竜達が地を踏みしめる度に、家屋は崩され、道には足跡が刻まれる。逃げ遅れた人々もまた、崩れゆく瓦礫によって、或いは竜の爪牙や炎にかかって次々と死んでいく。
 まさにこの世の地獄絵のような光景を横目に見ながらも、超竜軍団の間を通り抜けつつ、滅びゆく王国の出口を目指して歩き続ける。不思議とこの惨状を目の当たりにしながらもその滅びへの感慨は沸かず、何者の目にも止まらぬまま崩れた城門前にたどり着いていた。

「気づかれてないとでも思ったか?バカめ!」

 だが、門を通りぬけんとしたその時、上空から嗄れた老人の声が聞こえると共に、不意に全身が燃え上がった。
「!」
 周りの光景にとけ込んでいたはずの体が炎に照らし出されるように、徐々に形をなしていく。炎を振り払いながら、その姿を現していく。
 手甲と脚袢、なめし皮の胴鎧に鉄の胸当てを組み合わせた簡素な複合鎧、そして目元までを覆う外套。隠密を目的としているのか、黒を基調とした比較的軽装の装備だった。それを纏っている者の姿は外套に隠れて子細を見ることはないが、僅かに覗かせる手はどこか白く、細長かった。
「姿を消さんとしても、魔法力のわずかな揺らぎが残っておったわ。それでこの妖魔師団長ザボエラをたばかろうなど出来ぬわい。」
 完全にその姿を現した逃亡者の前に、あざ笑うような声の主が降り立つ。人間にはない長い耳と、人間の老人のそれよりも深く刻まれた皺。身に纏うまがまがしいオーラと併せて、この魔道士然とした小人・妖魔師団長ザボエラが、明らかに人ならざる魔族であることを知らしめる。 
「せっかくここまで逃げ仰せたところで悪いが、死んでもらうとするかのう、ふぉふぉふぉ。やれぃ!!」
 滅びゆくカールから後一歩で落ち延びられるところを、最後に捕捉された哀れな逃亡者を蔑むように笑うと共に、部下とおぼしき魔道士が現れる。
 古の邪神に仕えていた者達・悪魔神官の衣を纏い、両手に妖魔軍団の手の者だった。
「メラミ」
「ヒャダルコ」
 悪魔神官達はザボエラの意志に従い、すぐに呪文を唱える。魔杖の先から、あるいは鉄球付きの棍棒対の間から、それぞれ火炎と冷気の激流が生成され、逃亡者に向けて放たれる。
「マホステ」
 しかし、逃亡者もまた、ささやくような声で呪文を口ずさんでいた。悪魔神官達が放った炎と吹雪が命中する瞬間、突如として発生した紫色の雲がそれらをかき消していく。
「な、何!?!」
「む、また得体の知れぬ呪文を使いおって。これだから異界の者共は……」
 いずれも一介の冒険者を葬るには十分な威力を持つ呪文であった。それを打ち消されて一瞬驚愕に目を見開く部下達を横目に、ザボエラは見慣れたものにうんざりしたように顔をしかめていた。
「異、異界……ですと?」
「不思議そうな顔をしとるな?人間共はおろか、魔王軍の誰も知らぬことであろうが、このザボエラには全てお見通しよ。」
「くくく……お前のその力、ただちに調査したいところじゃのぉ。」
 ザボエラの言動は今の部下達のように初めて見る者の反応ではなかった。この悪魔神官達がこれまで知り得なかった異世界からの呪文。それを前にしても恐れるどころか、食い入らんばかりに注目している様子さえ見せている。か細い老人でありながらも、その知識欲からすべてを見透かされてしまうような恐ろしさすらはらんでいた。
「何をボサっとしておる!逃がすでない!!」
「はっ、はい!!」
 不敵な笑いを浮かべるもつかの間、呪文を防がれて呆然としている部下達を叱責し、逃亡者へと駆り立てた。一人は二つの棍棒を振り回して、もう一人は懐剣を取り出して斬りつけた。
 打ち下ろされる鉄球の先端を後ろに飛んでかわし、投擲されたナイフは剣を抜き放ちざまにたたき落とし、そのまま斬り伏せる。その瞬間、焼け付くような目映い光が迸り、悪魔神官を襲った。
「あの武器……ギラの力を……。」
 刀身の根本が紅葉のように三叉に分かれた、幅広の刃を持つ剣だった。刀身を覆うように稲妻のような紋様が刻まれている。それがギラの光を以て敵を焼き付くす魔剣「破邪の剣」だった。
 深手を負ったにも関わらず尚も棍棒を振り回してくる神官達にも怖じず、その立ち回りと破邪の剣の力を以て終始優位に立っていた。
「ふぉふぉふぉ、これでも喰らえい!」
 ギラの力を解き放とうと破邪の剣を悪魔神官へと向けようとしたその時、不意にザボエラが何かを投げつけてきた。
「バカめ!!呪文が効かぬからと油断したな!!」
 思わず切っ先をそちらに向けると、何かが詰め込まれた袋が炎に包まれていた。その立ちこめる煙を吸い込んだ瞬間、不意に体中が痺れ始めた。
「武器の力などに頼るからバカなんじゃよ、ふぉふぉふぉ。」
 斬れば中身がまき散らされ、炎にかければ煙により広がる。本能に任せるままでは避けようのない攻撃を前に倒れた逃亡者を、ザボエラは嘲りながら歩み寄り、懐から取り出した短剣を、腕の籠手の隙間に突き刺した。
「フン、肉体の強度は人間のそれと変わらぬようだな。」
 鎧に守られていない腕に、短剣は容易く深々と突き刺さった。異世界の者と恐れた者が悲痛な叫びを上げる程の激痛に身をよじらせる。
「いずれはお前の仲間達全てを引きずり出して、ワシの糧とさせてもらうとするかのぉ。そいつをひっとらえいっ!!」
 そのような無様な姿を見て拍子抜けしたように嘆息するも、今もまた未知の力を垣間見たことには違いない。或いはこれを餌に更なる異世界の者を呼び込むことができるやもしれない。
 そのような思惑を抱えたザボエラの命に従い、すぐさま悪魔神官達が動く。煙幕と短剣の毒に犯されて動けない人間一人を捕らえるなど、容易いことのはずだった。
「……なっ!何……!?」
 だが、手をかけようとした瞬間、不意に逃亡者の周りに黒く渦巻く穴が現れて、その内より迸る奔流が悪魔神官達を弾き飛ばした。
「むむ、あれは……地脈のエネルギーか?」
 逃亡者を守るように、或いは逃さぬようにか、包み込んでいる漆黒の渦を成すものについて、ザボエラはその印象より受けての推察をこぼしていた。その正確な正体は知り得なかったが、どこか人間に対して扱うにしては余りにまがまがしい闇に見える。やがて逃亡者は闇に溶けるようにして、この場から気配を失っていた。
「消えた!?」
「消えた、ではないわたわけが!!あやつらが何をしでかすかわからんのはわかっておったろうが!妖魔師団とあろうものがこんなクズ共ばかりか!?」
「も、申し訳ありません!」
 せっかくの獲物を失ったことに呆けたように狼狽える悪魔神官達を見て苛立ちを露わにしたザボエラの叱責が飛ぶ。既にこれより前にも異世界の者どもに接触する機会があったらしく、学習を怠ったことを怒る様子が見て取れた。
「ふん……なんじゃい、貴様等の尻拭いまでせにゃならんなど全く……」
「ザボエラ様?」
「ふぉふぉふぉ……」
 だが、ひとしきり怒り散らした後は、一度嘆息しただけでそれ以上部下達を責めることなく、急に上機嫌そうに笑みを浮かべていた。この場で捕らえられなかったにも関わらず、その失敗に対する落胆は微塵も見せていない。
「悪魔の目玉を奴に繋げ。奴の足取りは既に掴んだわ。」
 既に狙いは達し得たのか、ザボエラは手早く次の指示を悪魔神官達に与えていた。



 激痛に悶え苦しみ、意識を失おうとした時に、突如として視界が暗転すると共に全身を襲う落下感。それが最後に感じた光景だった。

「毒を浴びたって?本当かよ、神父サン!」

 意識を取り戻したのは、張りのある野太い男の声によるものだった。だが、目を開けようにも瞼が重く、開かない。
「うむ。解毒呪文キアリーを施した。これでおおよその毒は失せたが、まだ軽微な毒素が体内に残っておるやもしれん。」
「えげつねえ毒だなオイ……」
 少々年老いたようにしわがれた声ーー神父と呼ばれたであろう者の指摘により、体が毒に蝕まれていることを改めて実感する。非力な魔法使いを絵に描いたような構図の敵が、毒を使うというのもまた自然な流れかもしれない。それを知っていれば、或いは避けられたことなのだろうか。
「お主もくれぐれも無理はするでないぞ、カンダタよ。」
「すまねえな、神父サン。旅の扉の管理人として大変だろうが、これからも頼りにさせてもらうぜ。」
 たった今に至るまでの介抱に留まらず、あの窮地から直接救い出したのもまた、この神父であった。ザボエラの部下に捕まりそうになった瞬間に、旅の扉と呼ばれる空間の歪みを利用して、遙か離れたこの安全な場へと運んだらしい。
 
「気づいてんだろ?起きるのも辛いぐれえ相当弱ってるみてえだけどな。」

 去りゆく神父に感謝の言葉を述べて再び部屋に静寂が戻ろうとした時、カンダタと呼ばれた男が語りかけてくる。目を開けることすら億劫でこそあれ、話は一部始終聞こえていた。
 ゆっくりと目を開けると、仄かな灯りに包まれた小さな部屋の天井が目に映った。体に取り込まれる空気からは懐かしくもかすかな匂いが漂う。粗悪な木で組まれたあばら小屋、住み慣れた我が家の一室であると感じ取れた。
 壁には古びた剣や槍、斧や弓を始めとして様々な種類の武器が立て掛けてあった。よく使い込まれており、すぐにでも使える状態に整えてある。書物の類も薬草や魔法、戦術などの項目に丁寧に分類されて置かれており、戦士の拠点として非常に高いレベルで整っている環境だった。
「……ったく、無茶しやがって。後少し助けが遅れてたら死んでたろうぜ?」
 逃亡者ーーその部屋の主たる者へ、男ーーカンダタが呆れたように顔を覗かせてくる。筋骨隆々の豪傑、という言葉をそのまま体現したような大柄な容姿の、赤髪の偉丈夫だった。ありふれた布の服であったが、鍛え抜かれた筋肉が浮き出ている。


「なあ、嬢ちゃんよ。」


 滅びゆくカール王国から逃げ延びた者が、ゆっくりとベッドから身を起こす。古いながらも清潔な白い寝間着を纏うその輪郭は、この部屋の主にしてはどこか細く、かつ丸みを帯びている。服の上からでもはっきりとわかる胸とと臀部の膨らみから、その体が女性のものとうかがい知ることができた。
「これだから俺はイヤだて言ったんだ。いくら腕が立つっても嬢ちゃんみてえな女をこんな作戦で死なせちゃ漢として寝覚めが悪くなるからよ。」
 武勇こそあれ、本来守られる立場にあるこの少女をただ一人で駆り立てることに、カンダタは最初から不安を募らせていた。
 この場にあるような様々な武器を操ることに長け、単独でカール王国への潜入及び諜報などもこなしてみせたことより、高い能力を有することは証明されている。それでも、今回の件では最後に不覚を取り、なすすべもなく敵の手に落ちるところだった。
「魔界、だっけか?んなとこに飛ばされたのはついてねえわなあ。」
 異世界の者として、全くどことも知れぬ世界に飛ばされた地。身よりも何もなく、凶暴な魔物が蔓延る地へと放り出され、多くの犠牲の中でようやくこの集落を形作れる程度になった。その生き残りとなった者達ももはや数える程しかおらず、一つの町を作り集まりよりそうことによって生きながらえてきた。
 そのような状況下で培われた親交は容易く忘れられるものではなく、人情味溢れ、面倒見がよいこのカンダタには尚更のことだろう。 

「おう、もう動いて大丈夫なのかよ。」

 翌日カンダタが訪れると、少女は身支度を整えて一人朝食を取っていた。
「よーくこんな粗末なモンからうめえメシが作れるよなあ。地上で暮らしてる間にまた腕を上げやがって。」
 魔界で採れる穀類のパンや僅かばかりの果実を細々と食している向かいに座りながら、感心した様子で彼もまたその一つを手に取る。鮮度や品質の悪さが目立つような味だったが、抵抗なく口に運べる程の出来映えだった。

「……そういや、なんか思い出せたのか?」

 ひとしきり手料理を堪能した後、カンダタは少女へそう尋ねていた。
 その出自は元より、ここに至るまでの経緯すら、彼女自身も分からずにいた。この世界に行き着いてからの記憶の一切が閉ざされた状態にあり、今の彼女にとっては一年足らずの出来事こそが全てであった。
「突然マホステが使えるようになった……と。相変わらず何が飛び出してくるか分からんなあ、お前さんは。」
 この場に迷い込んできた時より、記憶の彼方より刻み込まれたと思しき力を以て生き抜いてきた。この世界において多くの呪文は契約を始め、然るべき手順を以て初めて使い手のものになる理がある。それを無視していつしか新たな呪文に目覚めたのも、かつての経験の産物なのだろう。
「剣にしたって体に叩き込まれてるモンなあ。後は体鍛えりゃいいだけだしよ。俺が教えるこたあ何もねえわな。」
 体つきは確かに女性らしさに満ちていたが、剣を振るう者としても不足のないものだった。体の基幹となる筋肉が鍛えられてるのか、軸の通った姿勢を無意識に保ち、四肢もまた無駄なく絞り込まれている。
 少女と呼べる年齢にも関わらずこれだけの資質を得ているのは、いかなる経験の裏付けによるものなのか。かつての彼女が果たしてどれだけの戦士であったかを思うと、不安よりも期待がカンダタの胸中を満たしていた。



 太陽の光が通らず、深部に満ちた魔力からの光による微かな灯りによってのみ照らされた痩せた地と淀んだ海。生物を育む力などなく、見渡すばかりの不毛の大地が広がる。この過酷な環境に闊歩するのは、この世界で最も強き種と呼ばれる竜族と、魔力に長けた魔族、更にはそれらに
比肩しうる強力なモンスター達だった。この地獄のような地こそ、大魔王の故郷たる魔界だった。
 魔族と竜族の領域たるこの地に迷い込んだ異世界の人間達は、それらの種族やモンスターとの戦いの末、ようやくそれに耐えうる安住の地を手にすることができた。外敵を遮る結界と城壁を築き上げ、異界の旅で鍛え抜かれた者達が屈強の兵士としてそれを警護している。決して豊かな地でこそなかったが、地上に居場所を得られなかった者達が住まうにはこの上ない環境であった。

「よくぞ無事に戻った!」

 任を終えて帰還した少女へと、玉座に座る人物が労いの言葉をかける。王宮と言える程の規模こそなかれ、人々をとりまとめるための会合、謁見などを行うに十分な規模の王邸の内部だった。
 玉石混合の異界の住人を束ねるだけあって、王たる者もこの殺伐とした中にあって大胆不敵に人心を掴み、城塞を築くに至るまでの優れた采配を下す名君として知られていた。
「そうか……カール王国が滅ぼされたか。それも、一週間足らずとな……。」
 地上に覇を唱えた大魔王の手の者達による世界の侵略の話は、この町にも密偵達を通じて幾度となく届いていた。いくつか聞いていた人間達による強い抵抗勢力、強力な騎士団を擁するとされる北のオーザム王国、強力な城塞に守られていたリンガイア王国、そして勇者の故郷たるカール王国。彼女の生還と共に、そのいずれも滅ぼされた事実を受けて、既にこの町中が騒然としていた。
 「正直に申せば今の我らにはなすすべもない。だが、いずれはこの魔界に位置する我らが町も明るみに出ることも免れまい……。」
 地上に位置する人間達の王国は次々と潰されていき、精強なる騎士や発達した文明の産物なども意味をなさない。故にこの魔界に潜み住むことを選んだが、それもまた見つかってしまえば同じ結果をたどることになる。
 少なくとも、地上の人間と同程度のレベルの備えでは、魔王軍に太刀打ちすることも難しいだろう。
「ともあれご苦労だった。ひとまずは傷を癒し、休息を取るがよかろう。」
 貴重な情報を集めた功績により王から褒美の品と労いの言葉を受け取ると、少女は一礼を返しつつ静かに王の間を去っていった。

 己の帰るべき場も友も失った迷い子として、見知らぬ地へと降り立つこととなった少女の道。また、それを取り巻く同じく異界より訪れた者達による、迫害や淘汰へ抗い続ける意思。
 それらが招く歪みが世界への変革を助長していく。行きつく先は未だ誰にも予見することなどできなかった。
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